恋愛境界線

「へぇ、芹沢さんってペットを飼ってるんだ?」


「はい。ハムスターなんですけど、もう、すっごい可愛いんですよー」


「私も実家に居た頃ペットを飼ってたから、その気持ち判るわ。いつ頃から飼ってるの?」


支倉さんの問い掛けに、口に含んだお酒を飲み干して「昨年からです」と答える。


「スナネズミなんですけど、私、生ハムが好きだし、うちに来たのが8月6日だったし、ハムスターに似てるし、それでハムって名前にしたんです」


ハムは英語でhamじゃなくて、ローマ字でhamuの方です、と指でスペルを綴ってみせる。


へらっと笑った途端、ぐらついた手元のグラスからは僅かにお酒が零れた。


「芹沢さん、大丈夫?やっぱり酔ってきたんじゃない?他のドリンクに替えた方が良いかも」


大丈夫ですよーと返し、その後も三人で他愛もないことを話しながら食事を続けた。


帰り際、結局最後まで帰らなかった奥田さんが、私を送ると言ってくれたけれど、その申し出は辞退してタクシーを拾った。



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