恋愛境界線
右鎖骨の真ん中辺りに、小さなほくろが一つ。
このほくろ、つい最近どこかで見た気が……と思った瞬間、脳内の記憶映像と重なった。
「……も、もしかして、若宮課長ですか?」
紙袋の持ち手を掴もうとしていた相手の指先が、電池の切れたおもちゃの様にピタリと静止する。
「や、やっぱり!若宮課長ですよね!?」
相手は次の瞬間、紙袋を掴んで立ち上がるなり、頭を左右に振った。
「じゃあ、声!声を聞かせて下さい!」
この人はシャイだから喋らなかったんじゃない。喋られなかったんだ。
若宮課長本人ならば、声を出した時点で私に正体がバレてしまうから。
「若宮課長、もう観念して下さい!鎖骨の所にあるそのほくろ、若宮課長も全く同じ位置にあるじゃないですか!」
そう告げると、若宮課長はとっさに鎖骨部分を隠し、『しまった』と言いたげに顔を歪めた。