恋愛境界線
「遥ちゃん、大丈夫かい?」
渚よりやや低めの背丈だけれど、スーツ姿は渚よりも様になっている。
そして、渚とよく似た――けれど、渚より穏やかな目元が気遣わしげに私へと向けられた。
「大丈夫なわけないだろ。くそっ、あんな時に引き留めてきた親父のせいだからな!」
「お前こそ、そんな大声を出したら遥ちゃんの頭に響くだろう」
呆れた様に軽く渚を窘めると、私の方に向き直り、「私のせいで、すまなかったね」と眉尻を下げた。
「全然!おじさんのせいじゃないし、私なら大丈夫です! というか、おじさんこそ大丈夫?久しぶりに見たら、何だか痩せた気がするんだけど」
「この馬鹿が遥ちゃんとの婚約を解消してからというもの、もう悲しくて悲しくて、食事も喉を通らなくてね」
「親父、もうその話は俺たちの中では終わってんの!これ以上、蒸し返すなよ」
「馬鹿者、さっきから何度親父と呼ぶ気だ。会社では常務と呼ぶ様にと言ってるだろう」