恋愛境界線
このままだと延々と続いてしまいそうな親子喧嘩の気配に、二人の会話にそっと割って入った。
「……あの、常務」
「あっ、遥ちゃんはおじさんでいいんだよ。そんな他人行儀な呼び方されたら、余計に寂しくなるじゃないか」
「他人行儀もなにも、元々他人だろ」
打って変わって穏やかな笑みを見せたおじさんに、渚が冷ややかなツッコミを入れる。
「おじさん、ごめんなさい……。あのことは渚は全然悪くないの。全部私のせいなの。本当に、ごめんなさい」
「いや、謝らないでおくれ。昔から、遥ちゃんが渚の嫁さんにきてくれると思っていたから、どうにも諦めきれなくてね」
おじさんは寂しそうな表情を浮かべたものの、私の手を取り、笑顔を浮かべながらポンポンと手の甲を優しく撫でた。
「まぁ、渚のことは抜きにして、たまにはお父さんと一緒に遊びに来なさい」
「はい、また父と一緒に伺わせて頂きます。おばさんのレモンパイも食べたいし」
「うちの息子が至らないせいで、社長もなかなかゆっくりする暇もないだろうし、一緒じゃなくて遥ちゃん一人でも大歓迎だからね」