恋愛境界線
おじさんは、気を取り直した様に「さて」と口にすると、黙ったまま成り行きを見ていた奥田さんの方へと身体を向けた。
「君のことは、さっき話を聞いたばかりでね。専務は、きっとまだ何一つ知らないのだろう?」
その問い掛けに、奥田さんが黙ったまま頷く。
今回はともかくとして、三年前のことはてっきり、専務に揉み消してもらったとばかり思っていたのに。
専務は関わっていないどころか、何一つ知らされていなかったという事実に少なからず驚く。
「うん、それじゃあ私から専務に何かを言うつもりはない。勿論、社長にもね。ただ、まだ君にプライドが残っているのなら、後のことは自分できちんと責任を取りなさい」
それだけ言うと、おじさんは若宮課長と支倉さんに「長々とすまなかったね」と一言詫びて、すぐに去って行った。
しんとなった室内に、「私たちも帰ろうか」と若宮課長の静かな声が響く。
「えっ!?奥田さんのことは?」