恋愛境界線

意地でもドアから手を放そうとしない私に、若宮課長は「いい加減にしないと警察を呼ぶぞ」と脅してきた。


部下を警察に引き渡すなんて……そんなまさか、いや、この人なら本当にやりかねない。


でも、そういう自分だって、今どんな格好をしているのか、判って言ってるんだろうか?


「判りました、放します。放しますから!それに、課長がどうしてそんな格好をしているのかとかも訊きません!!」


訊くまでもなく、それはあっち系だからという理由に他ならないだろうけれど。


「それから、このことを口外もしません。だから、お願いです――」


フッと手の力を抜くと、若宮課長はドアに手を掛けたままの状態で耳を傾けてくれた。


「どうか、今日から当分の間、ここに住まわせて下さい!」


「断る!」


無情にも、私の目の前でバタン、と勢い良くドアが閉ざされた。


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