恋愛境界線

「緒方常務が言った通り、あとは奥田に任せよう」と、若宮課長は背を向ける。


もう諦めたからなのか、奥田さんは落ち着きを取り戻していて。


「……悪いけど、俺は何も話す気はないよ。けど、責任は取る。週明けにでも、きちんとけじめをつけるよ」


掴みどころのない、いつも飄々としている奥田さんのこんなにも静かな声を聞くのは初めてだった。


「奥田くんっ!」


若宮課長の横をすり抜け、このフロアから出て行こうとした奥田さんに向かって、支倉さんが言葉を投げかける。


「同期として一緒に頑張ってきた奥田くんに、あんなことして欲しくなかった……」


奥田さんは足を止めず、けれど私たちに背中を向けたまま静かに言葉を返した。


「……自分がしたことは認めても、謝るつもりはない。若宮にも支倉にも」


それだけ言うと、あとはそのままフロアから出て行ってしまった。


そして、週明けの月曜日、奥田さんは辞表を提出したと聞いた。




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