恋愛境界線

けれど、若宮課長は挫折どころか、停滞すらせずに、どんどん昇進へのステップを重ねて行ったわけで。


「そもそも、20代で課長職に就いた若宮くんは、やっぱり異例中の異例なわけだし」


IT企業やベンチャー企業ならともかく、うちの会社では、課長職は30代というのが暗黙の了解になってる。それを打ち破ったのが若宮課長だ。


「その事実を受け止めて、いい加減、対抗意識だか執着だか判んないものは、すっぱり諦めるなりすれば良かったのに。その方が楽なのに……」


奥田くん、プライドが高いから何一つ認めたくなかったんだろうね、と独り言の様に洩らした。


他人から見れば、浅見先輩の言うことは(もっと)もだ。


けれど、何かに藻掻(もが)いている時には、他人の言葉が耳に届かなかったり、素直に受け止められなかったりする。


視野が狭まっている分、過った選択をしてしまうことは、誰しも少なからずあると思う。


よりにもよって最悪の方向へ走った奥田さんを、だからといって許す気には到底なれないけれど。


「何か、そんな奥田くんを見てたら可哀想だなって思ったんだ。若宮くんと自己評価の程度をイコールにしたいって考え方にばかり固執する彼を、可哀想な人だなって」


< 567 / 621 >

この作品をシェア

pagetop