恋愛境界線
「さて、さすがにもう帰らないと」
椅子から立ち上がった浅見先輩に、釣られて私も立ち上がる。
「考え直す気はないんですか?他にけじめのつけ方、本当にないんですか?」
三年前に奥田さんに手を貸したことを知っても、それでも辞めて欲しくないと思ってしまう。
けれど、浅見先輩はそうじゃないの、と言った。
「三年前のことを若宮課長にも話したし、今回のプロジェクトが成功する様に、全力を注いで取り組んできたわ。それが私なりのけじめのつけ方で、辞めるのは単に気持ちの問題なの」
今の仕事は好きだけど、以前の様にがむしゃらに取り組む情熱もなくなったし、どうしても余計なことにばかりに気を取られ、楽しいとも思えなくなっちゃったから。
そう言われてしまえば、私には引き留める言葉も術も持たなかった。
「芹沢さん、ごめんね。でも、やっと誰かにこの気持ちを話せてスッキリした!」
浅見先輩は心底清々しそうな表情で、両手を天井へ向けて身体を伸ばした。