恋愛境界線
「じゃあ、お先に。お疲れさま」
「はい、お疲れさまでした」
そう言って、浅見先輩の背中を見送る。
浅見先輩とは今日が最後ではないけれど、それでも辞めてしまうことへの寂しさが込み上げた。
指示される前に進んで仕事をこなすところだったり、困った時にはさり気なくアドバイスしてくれたり、仕事をする上で見習うべきところが多く、密かに尊敬していたのに。
仕事上でしか関わりはなく、しかも、意外な真実を聞いてしまった直後だけれど、それでも嫌いにはなれず、寂しい気持ちに変わりはなくて、心がすうすうする。
のろのろと帰り支度をして一階へ降りると、エントランスには若宮課長の姿があった。
足音で気が付いたのか、腕時計に視線を落としていた若宮課長がふいに顔を上げ、目が合うと、私に向かって軽く片手を上げた。
「……私をタクシーか何かだと勘違いしてるんですか?」