恋愛境界線


「えっと……じゃあ、今日も一日、お疲れさまでした」


自分のグラスを若宮課長のグラスに傾けると、グラスはカチンッと小気味良い音を立てた。


場所は、以前支倉さんとランチに来たことのある定食屋さん。


お昼時には定食を出すこのお店は、夕方になると仕込みの為に一旦店を閉め、夜は居酒屋として営業しているらしい。


お酒を飲みたい気分ではあったものの、今日はウーロン茶にした。


私と同じくウーロン茶を頼んだ若宮課長は、それを一口流し込むとおもむろに訊ねてきた。


「彼女から、全部聞いたんだろう?」


店内にはまばらにサラリーマンの姿が見受けられるものの、職場の人はいない。


テレビの音と適度な会話のお蔭で、煩すぎず静かすぎもしない空間になっていて、これならば、会話が途切れても重苦しくならないし、会話をするにしても気兼ねなく喋られそうだ。


「もしかして、さっきまでこ浅見さんと私の会話を聞いてたんですか?」


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