恋愛境界線

「いや。彼女が君に声を掛けるところ見掛けて、何となくそうなんじゃないかと思っただけだ」


若宮課長は察して、すぐにその場から引き返したらしい。


「浅見さん、今のプロジェクトが落ち着いたら、辞めるって言ってました……」


そう、と静かな声が返ってくる。


元よりその件に関しては、他人がどうこう言えることじゃないと知っている――そんな相槌だ。


「ところで、課長!他には、もう私に隠してることはないですよね?」


場の雰囲気を変えようと、「ほんと、どこまで秘密主義なんですか!」と言えば、「君の方こそ」と返された。


「えっ、私?」


「芹沢社長と親子関係にあるのだろう?まぁ、随分と大きな秘密を隠してたものだ。私の中でここ数年で一番の衝撃だったよ。はっきり言って、君に女装がバレた時以上の驚きだ」


若宮課長がサラダを取り分けながら、からかい混じりの皮肉を口にした。


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