恋愛境界線
「そんなにですか?内心、課長にはもっと早い段階でバレるかと思ったんですが、そうでもなかったみたいで……てへぺろ」
「何が、てへぺろだ。というか、どういう意味だそれは」
「……すみません。一度使ってみたかったので使ってみただけです」
芹沢という名字の社員が、うちの会社には他にも数名いたせいか、はたまた、私の振る舞いが社長令嬢らしくないせいなのか。
私が、現社長の娘だということを、入社してから疑われたことは見事に一度もない。
若宮課長に至っては、私と渚が幼なじみの関係にあることを知っていたにもかかわらず、だ。
渚に社長の娘との縁談が持ち上がってるという話題が出た時でさえも、その相手が私だとは結びつかなかったみたいだし。
「確かに、父は社長ですけど、私自身は化粧品なんて大して興味なかったんです、実は」
「実はも何も、以前の君を見ていたら判るよ」
若宮課長が、何を今更、といった風な視線を向けてきた。