恋愛境界線
そんなに以前から私のことを見ていてくれていたのかと思うと、嬉しさとほのかな期待に、思わず居住まいを正してしまう。
けれど、それは期待とは別の方向へと流れた。
「仕事に対して完全に受け身だし、スキンケア用品も自社ブランドを使わず、ブランドは見事にバラバラ。それどころか、ライン使いすらしない」
「えっと、もしかしてここから説教か、嫌味モードに突入しちゃう感じですか?」
差し出された取り皿を受け取りながら、恐る恐る若宮課長をチラリと仰ぎ見る。
「いや。今の君は、自分の会社や仕事に興味のない様には見えないから、今更言う気はないよ」
ホッとして取り分けられたサラダに視線を落とすと、私の嫌いな玉ねぎがちゃんと除けられていた。
まだ覚えていてくれたんだ、と嬉しくなる。
「興味はなかったのに、渚とおじさん――常務の計らいで、気付けばなんとなく入社することになってしまって」
今思えば、本気で入社したかった人や真面目に働いている人には失礼なことだけれど。
でも、あの頃の私はそんな感じで、他にやりたいことや目標もなく、なんとなく入社して、毎日なんとなく働いていた。