恋愛境界線
支倉さんは続けて、「あーもうっ、本当、自分が馬鹿みたいに思えてくるわ」と言った。
「どういう意味ですか?」
「んー?本当はいじわるな役に徹しようと思ったんだけど、芹沢さん相手にそれは無理みたいってこと」
だって、余計に自分が惨めになっちゃうもの、と呟くと、次の瞬間には私の鼻先に人差し指を押し付けてきた。
「そもそも、芹沢さんは約束を破って一人で動いたんだから、あの条件も無効よ。むしろ、手を引いたら許さないから」
「な、何ですか、そのむちゃくちゃな言い分は!支倉さんこそ、頑張れば良いじゃないですか」
「無理よ。私はもう若宮くんにはキッパリと線を引かれちゃったもの」
それは、私が体調の悪かった若宮課長と一緒にいて、そこに支倉さんが訪れた日のことを指しているらしい。
「もうこれからはただの同僚として、今後は遠慮して欲しいって、きっぱりとね。自分だけはまだ特別な位置にいる気で自惚れてただけに、あれはショックだったなぁ」
そんなわけで私は離脱、と言ってバトンでも渡すかの様に、支倉さんは「頑張れ」と私の肩をトンッと叩いた。