恋愛境界線
間違っても都合の良い勘違いをしちゃいけない、と自分に言い聞かせながら、「部下として側に居て欲しいって、そういう意味ですよね?」と訊ねる。
「部下として、だけでなくだよ」
「嘘、ですよね?だって、それじゃあまるで、課長が私のことを、好き……みたいじゃないですか」
「だから、そうだと言っている。これ以上、どういえば君に伝わるんだ?」
「……本当に?実は冗談だった、とかじゃなく、ですか?」
若宮課長は困った様に一度上を見上げ、首筋を擦った。
参ったな、仕事でもこんなに困ったことはないんだが……とか、そんな独り言を洩らしながら。
行き交う人たちの邪魔にならない様に、私の手を引いて自販機の影へと移動する。
「……以前君は、僕の一生のお願いを聞いてくれると言っていたけれど、それはまだ有効なのかな?」
どんなお願いなのかは判らないけれど、それが若宮課長の心からの願いで、私に出来ることならば、ちゃんと叶えてあげたい。
そう思って、黙ったまま小さく頷く。