恋愛境界線

「ほら、次の電車が来たみたいだ」


ホームでは『白線の内側まで下がってお待ち下さい』と、お決まりのアナウンスが流れている。


それでもその場で俯いたまま動こうとしない私に、課長の苦笑まじりの声を投げかけてきた。


「芹沢君、いい加減に顔を上げて」


「無理っ……です!!」


すん、と鼻をすすれば課長がまたしても小さく笑って、私の顔の位置に合わせて頭を屈めた。


以前、泣いた時に見苦しいと言われたこともあって、覗き込んできた課長から顔を逸らす。


「見ないで下さい!!今、涙が止まらなくて、見苦しい顔をしてるので」


「愛くるしいよ」


そう言って、頭を課長のシャツに押し付けられた。


同時に電車がプラットホームへと到着したけれど、電車なんてもうどうだっていい。


「……かちょぉ、すき……です」


涙まじりに伝える声が、つたなく震える。


私と課長の間に横たわっていた線を


越えることは出来ないと思っていた線を


「内緒にしてましたけど、本当はずっと、好きでした」


今やっと、飛び越えた気がした――。





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