恋愛境界線

「忘れたのか?プロジェクトが成功したら他へ行こうと思う、と言ったじゃないか」


「あぁ、そのことですか!それなら、他の部署へ行こうと思うっていう意味ですけど」


若宮課長と付き合い始めた今でも、異動したいという思いに変わりはない。


それはあの時よりも、より前向きな気持ちでそう思う。


人事異動は人事部の管轄であって、秘書課の渚には管轄外だということは判っている。


けれど、今回のことでもっと色々な部署で学びたいと、渚に相談したところ、渚からは「いくら何でも、突然今の時期にというわけにはいかない」との返事があった。


特別急ぐ理由もないから、人事異動の時期に合わせて異動の辞令が下りる予定になっている。


何やら勘違いしていたらしい若宮課長は、誤解が解けたことに、喜ぶよりも脱力してみせた。


「君だって人のことをとやかく言えないくらい、十分、言い方が紛らわしいよ」と。


「そういえば課長、今日で付き合い始めてちょうど一ヶ月なので、記念にケーキを買ってきたんですよ」


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