恋愛境界線

勇気を振り絞って、泊まっても良いか訊ねた私に、課長は何てことのない様子であっさりと答えた。


「僕は構わないけど、例の生命体が君を待ち侘びているんじゃないのか?」


ハムという名前があると知っているにもかかわらず、若宮課長は『例の生命体』なんて言い方をしてくる。


「ハムは、純ちゃんちにお泊り中です」


絵本作家でもある純ちゃんに、次の作品でスナネズミを登場させたいからハムを観察させて欲しいと頼まれ、それならと一日だけ預けてきたのだ。


「泊まるのは構わないけど、以前にも話した通りソファベッドは知人に譲ってしまって、今はベッドしか空いてないけど、それでも?」


何だろう、この質問。


私が必死に勇気を振り絞って、自分なりに意思表示をしたつもりだったのに。


というか、ドラマとかだと、こういうことには言葉が要らない感じでスマートに展開されて行くのに。


「例え、ここに今ソファベッドがあったとしても、私はベッドに寝ますからねっ!?」


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