恋愛境界線
「あの、課長はシャワーとか、いいんですか?」
「芹沢君がうちに来る前に、既に済ませたよ。今日は喫煙者と打ち合わせしたからか、移った煙草の臭いが気になって」
ベッドに横たわる私に、覆い被さる様にして見下ろしている若宮課長の首へと両腕を回す。
「……本当、だ」
僅かに上体を起こした体勢で若宮課長の首筋に顔を寄せると、うっすらと今の私と同じボディソープの香りがした。
「君のことを可愛いと思うなんて、僕も相当重症だな」
ため息の後にそんなことを言い、何が可笑しいのか若宮課長が小さく笑う。
褒められたのか、貶されたのか判らずにいる内に、再びそっとベッドの上に縫い止められた。
目のやり場に困っていると、課長の右鎖骨の真ん中辺りにある小さなほくろが視界に入った。
このほくろがなければ、課長の女装を見破ることもなく、こんなに深く関わることもなかったかもしれない。
思わず指を伸ばして、そっと触れる。
すると、課長は私のその手を取り、自分の手を重ねてきた。
それを視線で辿っていると、額や頬に軽くキスされ、次に唇にゆっくりとキスが落とされた。