恋愛境界線
シャツの裾から差し込まれた手に、思わず身体がビクリと反応する。
それでも課長は触れるのを止めることはなく、重ねていた唇が離れると、それは次第に首筋へと下がって行く。
静かすぎるせいで、自分の心臓の音が聞こえるんじゃないかと、本気でそんなことを思ってしまう。
チュッと短く響くリップ音と、ドクドクと大きく脈打つ心臓音が羞恥を誘う。
「あっ、あの、かちょぉ!あらかじめサインとか、きめてたほーが、よくない……ですか?」
少しでも気を紛らわせる為、何か喋ろうとしたけれど、今にも壊れてしまいそうな心臓のせいで、どこか舌足らずな喋り方になってしまう。
そんな私に、首筋に顔を寄せていた課長が、「サイン?」と僅かに顔を上げた。
「えーっと、ほら、歯医者さんとかで、痛い時は片手を上げて下さいねーって言われるじゃないですか?」
自分でも、何で今こんなせっかくの雰囲気を壊す様なことを言い出しているんだろう、と思うけど。
それでも、このままじゃ心臓が持ちそうになくて、一旦止んだ愛撫に急いで心臓を落ち着かせようと試みる。