恋愛境界線
いつの間にか、若宮課長は私を下の名前で呼んでいて、「遥」の響きにも熱が伴う。
私が課長の背中にきつくしがみつく度に、宥める様に綿菓子みたいに甘い言葉を囁かれた。
好きだとか、幸せだとか、伝えたい言葉は次から次へと胸の中に溢れてくるのに
実際に私の口をついて出る言葉は、どれも言葉の意味をなさないものばかりで。
際限なくどんどん駆け上がって行く吐息と律動に、息が上がり、心臓が壊れそうになる。
掠れた吐息の課長に煽られる様に声が弾けると、頭の中が溶けてぐずぐずになった。
気付いた時には、ふわふわとした幸せの中を漂っていて。
夢と現実の境目にいた私は、最後の方の記憶はおぼろげで。
意識が途切れる直前、課長が「おやすみ」と言ってくれたのだけははっきりと耳に届いた。
それは余りに優しい響きだったから、私は安心して意識を手放した。