恋愛境界線
「そういえば、そのハムという生命体の存在を、すっかり忘れていたなぁ」
若宮課長が肩肘をついたまま、ぼんやりと天井を見上げて目を閉じた。
「忘れないで下さい。ハムは、私の大事な家族の一員なんですから」
「……仕方ない」
そう言うと、閉じていた目をゆっくりと開いて私の方を見た。
「せっかくの休みだし、受け取りに行って、そのままここに連れてくればいい」
「えっ、良いんですか!?でも、課長はネズミは苦手なんですよね?」
「そうだが、君がここに住んでいた頃、ハムも一緒だったのだから今更だよ」
ケージから出さなければ問題ないと。ついでに、自分は決して、触りも構いもしないけれど、と明言された。
「じゃあ、これからお泊りする時は、ハム同伴でお邪魔しても良いですか?」
本当に厚かましいな、と言い返されることを想定しながら、図々しくも期待に満ちた笑顔で訊ねる。
「これからは、君とスナネズミの両方に振り回されるわけだ……」
諦めた様にそう言って、「そうなっちゃいますね」と、締まりのない顔で笑う私を、若宮課長は腕の中に閉じ込めた。