恋愛境界線

「えっ、それって、もしかして……私は今、同棲話を持ち掛けられてます?」


「何が、同棲だ。以前の君が言うところの“ルームシェア”だ。まぁ、遥の気が向いた時にでも考えてくれれば良いよ」


驚いて思わず後ろを振り返った私に、若宮課長は気にも留めない素振りで、そのまま玄関の方へと向かう。


「じゃあ、先に出るよ」


「わー、まずい!本当に急がないと!もう、何でこのタイミングで、そんな大事なこと言うんですか!課長のばかー!」


玄関の外へ出た若宮課長が振り返り、「“芹沢君”も遅刻しない様に」と言ってドアを閉めた。


切り替えの完璧さは相変わらず。


心の境界線を飛び越えた時から、今度は別の境界線が出来た。


このドアの向こう――部屋から一歩外に出れば、私と課長は同じ職場の部下と上司で


課長は私のことを、間違っても下の名前で呼ぶことはないし


私は、ふざけても恋人としての振る舞いを匂わせることはない。


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