恋愛境界線
おまけに、課長には現在付き合ってる人はいないとくれば、好都合この上ない。
一番の問題点である“異性”という点も、この人の場合は、女に興味がないということでクリア。
私にとっては、ロイヤルストレートフラッシュ並みの好条件が揃っている。
「若宮課長の場合は、その手の心配をする必要は全くないって、ご自分で仰ってたじゃないですか」
それとも、やっぱり“万が一”が起こり得る心配でも?と、挑発的に訊ねてみる。
「君に襲われる心配はあっても、こっちが襲う心配は万が一にもない」
「人を狼かゾンビみたいに……。私だって襲いませんよっ」
「それを抜きにしても、君はプライバシーを侵害しそうだし――というか既にされているが。口だって軽そうだ」
「今後は尊重しますし、女装のことも、ここに住むことも、口外しません」
「そう言われて簡単に信じられるとでも?今、それを証明出来る?」
『身分を証明出来る物は?』と訊かれて、運転免許証やパスポートを見せるのとは訳が違う。
この状況でとぼけたフリしてそんな物を差し出してみたところで、余計に信用を失うだけだろうし。