恋愛境界線
私を追い出す為の口実なのかもしれないけど、こっちだって引き下がるわけにはいかない。
「酔ってここに泊めてもらった例の一件を、私は未だ、誰にも話してません」
どんな小さなことでも、社内ではすぐに噂の的になる若宮課長だ。
私が泊まったなんて他言したのなら、きっとそこに尾ひれが付いた状態で、既に課長の耳にまで届いているはず。
その件に関する噂が課長の耳に届いてないことは、イコールで私がそのことを誰にも話してないってことの証明になる。
「それは、私の口が堅いってことの証明にはなりませんか?」
そう言ってみせた私に、若宮課長は「君は口が回るのか、頭が回るのか……」と唸りながら天井を見上げた。
そしてそのまま目を閉じ、沈黙した後に再び開くと、その焦点を私に合わせ
「──判った。これ以上は話しても時間の無駄だ」
そう言って、ソファから立ち上がった。
「君に弱みを握られている以上、私は君をここに泊めるしかないみたいだし、いい加減覚悟を決めたよ」