恋愛境界線
これでやっとお昼ご飯にありつける、と思いながらエレベーターを待つ。
チンッと短い音を立てて到着を告げたエレベーターに乗り込もうとした時、降りてきた人物と肩先がぶつかった。
「あっ、すみません……」
ぶつかった拍子に落としてしまった封筒を拾おうとしたところ、今度は頭がぶつかった。
そこで後れ馳せながら、ぶつかった相手が営業の、あの深山さんだと気付いた。
若宮課長同様に、部署の関係なく、社内では知らない人間がいないほどの有名人。
整った爽やかなその外見に、人当たりの良い性格が相まって、うちの女子社員なら誰でも一度は深山さんと付き合ってみたいと話題に上る人。
仕事の能力があるという意味では若宮課長と同じだけど、性格や外見は正反対だ。
物腰は落ち着いているけれど、年齢は確か、私と同じか一つ上くらいだったはず。
「……あの、本当にすみませんでしたっ!」
深山さんが落とした封筒も一緒に拾い上げて、頭を下げながらそれを彼へと差し出した。