恋愛境界線

「あの、すみませーん、ちょっと急いでるんで、先に行っても良いですかー?」


エレベーターの中から投げ掛けられた他の人の声に、「あっ、待って下さい!乗ります!」と、慌ててエレベーターへと駆け込む。


ドアが閉まる直前に、深山さんに向かってもう一度頭を下げた。


その後、社員食堂でランチを済ませて戻ると、午前中から打ち合わせで席を外していた若宮課長が、いつの間にか戻って来ていた。


「若宮課長、頼まれていたlotusデザイン事務所さんのデザイン案です」


封筒を渡すなり、その場で課長が中身を取り出して確認する。


「……芹沢君、これは?」


「え?」


課長が私に向けて見せた書類には、パクトケースのデザイン画ではなく、見覚えのないグラフや数字が並んでいる。


それが一体何の用紙なのかも判らなければ、どうしてそんなものが出てきたのかも判らない。


私が受け取ったのは、間違いなくデザイン案だったのに……。


もしや、課長による新手の手品ですか?と言いかけた矢先に、ふと少し前の出来事が頭を過った。


──あっ!もしかして、エレベーターでぶつかったあの時に、封筒が入れ替わった!?



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