恋愛境界線

私と深山さんが落とした封筒の色は、偶然にも同じ。サイズも同じくA4だった。


ただ、あの時は気付かなかったけれど、こっちの封筒には《lotusデザイン事務所》の文字がプリントされていない。


「す、すみませんっ!!人とぶつかった際に、間違って相手の封筒を持ってきてしまったみたいです……!」


今すぐ取りに行ってきます!と言おうとした矢先に、同じ部署の同僚が私の名前を呼んだ。


「芹沢さーん、営業の深山さんがいらしてますよー!」


えっ、と思って呼ばれた方を振り向くと、他の女子社員が私と同じ方角を見て、ひっそりと色めき立っているのが視界に入る。


視線の先で目が合うと、深山さんは『どうも』と言った感じで軽く頭を下げ、すぐにこちらへとやって来た。


「深山さん、すみません!先ほどお渡しした封筒ですが、こちらの物と入れ替わってしまったみたいで……」


「ええ、そうみたいですね。こちらこそ、すみません。あの時すぐに気が付いたんですけど、人と合う約束が入っていたので、届けるのが今頃になってしまいまして」


そう言って差し出された封筒の表には、《lotusデザイン事務所》の社名と住所、電話番号等がプリントされている。


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