恋愛境界線
「芹沢君、君は封筒を落とした際に、その場で中を確認せずに渡したのか?」
「はい。急いでいたので、つい……」
「今回はこうして手元に戻ってきたから良かったものの、そうでなければ外に漏れる可能性だってあった」
静かな厳しい声で注意されるのは、大声で怒鳴られるよりも鋭く胸に突き刺さる。
それと同時に、自分の犯した初歩的なミスによって、若宮課長の指摘する様な事態を招く恐れがあったことに気付く。
改めて、そうならなかったことに――こうして無事手元に戻ってきたことに、ホッとした。
「本当に、すみませんでした……っ」
「それは私じゃなくて、まず先に深山君に謝りなさい」
「いえ、僕の方こそ、その場ですぐに伝えなかったのが悪いので、気にしないで下さい」
深山さんは「それに、僕も似た様なミスをしたことがあるので」と言いながら、そっと優しく微笑んでくれる。
その微笑みに思わず見惚れてしまった私の側で、若宮課長が「深山君は甘い」と零した。
甘い深山さんが飴だとしたら、この人は鞭だと思う。