恋愛境界線
「あっ、そうだ。深山さんが持っていた封筒の中身、こちらですよね?」
課長のデスクの上に置かれた書類の束を、確認の為に深山さんに見せる。
「そうです。でもこれ、若宮課長に頼まれていたリサーチ結果なんで」
芹沢さんが封筒を間違えたお蔭で、僕が届けるよりも早く若宮課長にお渡し出来たみたいで良かったです――と、私をフォローする様に冗談めかしてそんなことを言う深山さんに、私の中の深山さんの株がますます上昇する。
「深山君、芹沢君はそういうことを言うと真に受けて、反省せずに図に乗ってしまうタイプだから、余り甘やかさないでくれ」
冗談めかしてではなく、本気でそんなことを言う若宮課長は、私の中で株価が下落。下落も下落、大暴落だ。
深山さんが控え目に笑い、「それじゃあ、これで失礼します」と言って立ち去ろうとすると、若宮課長は、私相手では絶対に見せない優しさを惜しみなく披露した。
「これ、有難う。深山君はいつも仕事が早くて助かる」
……例の噂は、やっぱり真実なのかもしれない。そう思った。