廓の華
初恋〜はつこい〜
“身体は許しても、心は許すな”
遊郭で生きる中で、肝に銘じている言葉だ。何人もの客をとり、自分が店に売られた値段を返済するため、心を殺して生きてきた。
この男に会うまでは。
「君は牡丹といったか。二十歳なら、俺とさほど歳は変わらないな」
その涼しげな目元に艶々と濡れた黒髪は、遊女を選びに妓楼へ現れた時から目立っていた。
遊郭とは縁が無さそうな色男。第一印象はそれだった。
すらっと高い背と、一見女性かと見間違うほど眉目秀麗な顔は世の女性の理想そのままだ。骨張った長い指と広い肩幅、わずかに緩められた襟から覗く筋肉質な胸板に男らしさを感じる。
引く手数多であろう容姿は、廓の中の遊女を沸かせる引力があった。
「言葉を交わせるのは三度目からだと聞いていたけど、初回は演者を呼ぶのがしきたりか?」
「いえ。この店では、そのような決まりはありません」
「はは、そうか。こういう場所に来るのは初めてで、どうも勝手がわからない」
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