廓の華
男の頼みは予想外だった。
つい、言葉を忘れて目を丸くする。
「遊郭に通って、花魁の馴染み客になれる財力があるんでしょう? 牡丹さんを幸せにしてあげてください」
「俺に頼むくらいなら自分でさらえばいいだろう」
「それができるなら、とっくにしてます」
口を滑らせたらしい彼は動揺して目を泳がせていた。
ふぅん。この男はあの子に惚れているんだ。
牡丹も、こういう真面目で献身的な男と結ばれる身分なら幸せになっただろう。
「なぜ、わざわざ俺に頼むんだ?」
「身体目当てで通う男より、よっぽど信用できると思ったんです。それに……きっと牡丹さんはあなたに本気だ」
沈黙の後、彼女の顔が脳裏をよぎった。
牡丹はいつも変わらぬ態度で接してくれた。大金を払って馴染み客になっても、高価な贈り物をしても、目の色を変えて媚を売る真似はせず、ただ申し訳なさそうにこちらを見ていた。
さすが花魁と認めるほど話し上手で、程よい相槌を打つのも上手かった。俺が来ると表情を明るくさせて、純粋に会話を楽しんでいる様子も見てとれた。
それは決して演技ではなく素であるというのが珍しく、良い意味で花魁らしくない子だ。
好意に気づいていなかったわけではない。現に、昨夜唇を奪ってしまった。一度も情を持った触れ合いはしないつもりだったのに。