廓の華
その時、惚れている女の幸せを願ってわざわざ他の男に身請けを頼みに来る不器用な彼を見て、嘲笑じみた息が漏れた。
「蘇芳といったか。君は少々馬鹿正直すぎる。カタブツだという噂を聞いたのだとしても、俺が信頼のおける男だと判断するのは短絡的じゃないか?」
「いえ、それだけではなくて……あなたは揉め事が起きても、挑発に乗らず冷静に対処していました。それに腕っ節も強い」
「だから俺が善良な人間だと?」
お天道様の下を堂々と歩んで生きてきた生優しい思考に、つくづく幸せな男だと毒づきそうになった。
この男は気づいていないのだ。
信用できると思った人物が、物心つく頃から手を汚し、標的の命を奪って金を得てきた人斬りだと。
揚屋の騒ぎだって、つい手元が狂って脳天をかち割りそうになるほど獰猛な殺気を内に飼っているということを。
俺は人に擬態をして生きている獣だよ。歪んでいるとわかっていて手を汚し続けた。そうしないと生きてこれなかったからだ。
今も、お前の惚れた女を殺すためにあの桃源郷へ通っている。