廓の華
ふわふわした温かい感情が込み上がった。
久遠さまは初めて会った時から他の誰とも違っていたが、言動以外にも、彼のまとう雰囲気や空気が久遠さまを特別に感じる所以だと思う。
そっと手を取られ、首元にあてがわれた。
彼の脈が、指に伝わってくる。
「俺も緊張しているだろう?」
涼しい顔をしているのに、脈はどくどくと速い。
彼は本気で隠し事をしようとすれば、隙なく完璧にやり遂げるのだろう。私は、一生彼の本音を聞くことはできないかもしれない。
翻弄されているうちに、気持ちを切り替えなければ。
久遠さまはお客だ。本気になってはいけない。口説き文句に一喜一憂してはいけない。
彼がなぜ遊郭に通うのかはわからないけれど、飽きられるまでは、幸せな夢だけみていたいから。
花魁としての自尊心を捨てられず、そう自分に言い聞かせた。
だけど、いくら必死に唱えても、私は久遠さまに惹かれ始めていることに気づかないふりはできなかった。