廓の華
だが、私は彼を男として気になっているのではなく、ひた隠しにする素性をあばきたいと考えているともいえる。
情報をぽろりと口にしてくれるときもあり、まるで示唆を辿って謎解きをしている気分になるのだ。
遊郭に通うようになってから約二ヶ月。
私が知ったのは、名前と容姿だけ。ふたりのときにみせる顔は、はたして本当の彼なのだろうか。
穏やかで品があり、頭も切れる。柔和な表情を浮かべて常に余裕があり、遊女よりも艶やかな色気でこちらを翻弄する、虫も殺せぬ優男……というのが、私が見てきた久遠さまだ。
そもそも、〝久遠〟というのは本名なのか?それまで疑ったら、信じるものは容姿しかなくなる。
私は、彼に呼ばれなければ自分から会いに行けない。改めて、彼と自分の身分の差を感じた。
「牡丹、ご指名だよ。例の二枚目」
はっとした。
声がかかるや否や、勢いよく立ち上がってしまった。素早い動きに、禿や番頭が笑っている。
気持ちを落ち着かせて身なりを整え、揚屋に向かう。もちろん、彼にもらった紅をひいて。