廓の華
「屏風やついたては豪華だけど、本当に静かな部屋だな」
「座敷は、少し離れた場所にありますから」
「騒がしくなくて落ち着くよ。君は本当に高い女なんだな」
「今宵は久遠さまだけの女ですよ」
隣の座布団に歩み寄り、あぐらをかく彼を見上げた。
頭ひとつ分高い位置で、長いまつ毛が伏せられる。
「俺に媚びを売る必要はないよ。自然体でいい。こんな美人にもてなされて、悪い気になる男はいないだろうけどね」
自然体だって?
思わず眉を寄せそうになり、必死で顔の筋肉を操る。
この仕事をしていて、そんな台詞を言われたのは初めてだ。角が立たないような優しい言い回しも気にかかる。
「お酒は嗜まれますか?」
「もらうよ。ありがとう」
律儀にお礼を口にした男は、盃を差し出した。透明の酒を注ぐと、くいっと飲み干す。口元を緩めて満足げに味わう様子を見て、心が揺れる。
不思議な人だ。耳に届く少し掠れた声も、低くて甘くて、頭の中が溶けそうになる。