廓の華
私は、久遠さまが手を出してこないと気にしていたが、向こうは誘ってこないと思っていたのだろうか。
私が距離を詰めないのは、接待は必要ないとはじめに言われたからなのに。
「久しぶりに久遠さまのお顔をみれて、気分が高揚しているのかもしれません」
「それは嬉しいな。俺も、今日を楽しみにしていたよ。会えない間も、牡丹のことばかり考えていたから」
他の客にも「会いたかった」とか「君だけを想っている」だとか、歯の浮くような台詞を言われた経験はあるが、彼に言われると全く違って聞こえる。
身体が熱くなって、純粋な少女のように舞い上がってしまいそうになるのだ。
本気かどうかわからないのに、本心だと信じたくなる。
「ああいうの、よくあるのか?」
久遠さまが指しているのは、揚屋での揉め事だろう。
怒りに震えた坂間屋の主人を思い出し、顔を伏せた。
「本来は、花魁にとって身請けの話が出るのは願ってもないことです。抱えている借金を全て肩代わりして、一生の愛人として迎え入れていただけるわけですから」
けど、と小さく続ける。
「中には、お菊のように情男に走ったり、周囲の目を盗んで足抜けしたりする遊女もいます」