廓の華
背筋が凍った。
おそらく、揚屋での縹さんの発言だろう。久遠さまからしてみれば、「つまらない客だ」と知り合いに言いふらしていたように聞こえてもおかしくない。
なんて言い訳しようかと頭を悩ませているうちに、腕を掴まれた。
紅をひくために添えられた指とは比べ物にならないほどの力だ。痛くないよう加減してくれているようだが、目の前の久遠さまはれっきとした男なのだと瞬時に理解する。
手首を余裕で一周するほど大きな手に、少しだけかたい竹刀ダコの感触。
つぅっと手首から指が滑り、流れるように片手を繋がれた。
「俺が抱かないのが不満か?」
「い、いえ」
「花魁としての誇りを傷つけたなら謝るよ。君に魅力がないわけじゃない」
女としてみられていないのは、多少気になっていた。だが、誇りを傷つけられたと思ったことは一度もない。
遊郭の客らしからぬ彼は、私を大切に愛でてくれているのだ。
まるで、本当に愛されていると錯覚しそうになるほどに。