廓の華

 繋がれた手を引き寄せられた。

 そっと、手の甲に薄い唇が触れる。

 口付ける瞬間の伏せ目が色っぽくて、心臓が早鐘を打ちだした。


「汚したくないと思ったんだ」


 語られた台詞に、目を見開く。


「君は、とても純真で綺麗だから。俺みたいな男が触れていい女性だとは思えなくて」


 どういう意味だろう。

 私は、自分の過去を振り返っても、決して綺麗な人間だとは言えない。何人もの客をとってきたし、借金返済のために貢ぎ物をねだって、密かに売ったこともある。

 買ってくれた人にはなんでもしたし、むしろ汚れているのは自分の方だ。

 久遠さまの瞳はいつもまっすぐで、慈悲の込められた視線は温かく、儚い風貌は夜風に乗って消えてしまいそうだった。


「君はここから抜け出せない。俺も主人からは逃げられない。似たもの同士、ふたりきりでいる何気ない時間が、どうしようもなく尊く思える」


 それは、私が感じていたものと同じだった。

 他愛のない会話を交わす一晩が、覚めてほしくない夢のように感じられる。


「私を綺麗だというのなら、久遠さまも汚れていませんよ」

「え……?」

「私とあなたは似ているのでしょう?」


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