廓の華

 久遠さまは静かに立ち上がって、座敷の奥に続く襖を開く。枕が二つ並んだ布団に、心が軋んだ。

 私の体を気づかってくれるのはありがたい。だが、今日も彼の温もりを感じることなく朝になるのだという確信があり、寂しかった。

 賭け事によって一線を引かれたことで、さらに近づけなくなった。彼は穏やかで包容力があってなにごとにも怒らないが、一定の距離を越えようとすると、突然優しく突き放す。

 追いかけて追いかけて、やっと背中に手が届きそうになったところで、深い谷に落ちる。いつまで経っても追いつけない。


 褥へ向かう彼を見つめた。掛け布団をめくって敷布団に腰を下ろしている。

 ほんの少し胸を刺した悲しみに気づかないふりをして、同じ布団へ潜り込む。

 結局私たちは、いつもこのまま。やがて先に寝息が聞こえだすのだ。今日も、きっとそう。冬の空気に包まれる布団は冷たくて、足が冷えて仕方がない。

 今夜は、私が先に眠ろうか。


「……少し冷えるな」


 いつもはかからないはずの声に、はっとする。

 驚いて隣を見ると、上体を起こしたままの彼がするりと髪紐を解いた。艶のある黒髪がやや乱れて肩にかかり、くらりとするほどの色気に殴られる。

 掛け布団に潜った彼は、こちらを誘うように腕を伸ばし、反対の片手で布団を少し持ち上げた。


「来い、牡丹」


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