廓の華
くすくすと肩を揺らす彼はわざとからかったみたいだが、そんな意地悪も嫌ではなかった。
久遠さまは無言で目を通し、大事そうに懐に忍ばせる。
「ありがとう。何度も読み返すよ」
穏やかな笑みを残し、彼は遊郭を出た。
それからというもの、久遠さまは私を指名して座敷に上がるたびに文を用意して来るようになった。こちらも手渡しで返事を書いて渡す。それがふたりの習慣になっていく。
中身は他愛のないものばかりで、旅の途中で見た景色だとか、天気の話だとか、昨日の晩飯の話だとか、とにかく会って話すときと大差ない内容だった。
しかし、達筆でまっすぐ並んだ文字がどうしようもなく愛しくて、久遠さまの温かい言葉が形に残ることが嬉しかった。
会えない間も何度も読み返し、箱にしまって取っておいた。それは久遠さまも同じようで、私からもらった文はすべて大切にとってあると口にした。
またしばらく仕事で来れない日が続き、旅先から届いたこともある。
『文は会えない間も話ができるようでいいと思ったが、やはりまずいな。牡丹を思い浮かべるだけで頭がいっぱいになって、会いたくて仕方なくなる。
早く君の声が聞きたい。また俺の名を呼んで、可愛らしい顔で笑ってほしい。
離れている間も、いつも君を想っている』