廓の華
もう、幸せになれないのは覚悟していた。顔を見て、体温を感じて、その覚悟が揺らぐくらいなら、いっそ会えないほうがよかった。
そうしたら、こんな身勝手な願いにすがらずに済んだのに。
「私を連れて逃げてください」
声が震えた。望みがないとわかっていても、背中に回す手に力がこもる。
「大旦那のものになる前に、さらってください」
私の存在は、久遠さまの足かせ以外のなにものでもない。自分勝手で、夢みたいな戯言を口にしている自覚はある。
それでも、人目を盗んでまで会いに来てくれた彼に期待をしてしまう。こんな優しく抱きしめられて、世界で一番大切だといわんばかりに撫でられて、都合よく解釈したくなる。
彼も、私を愛してくれていると信じたい。
その時、背中を抱いていた手が後頭部に触れた。力強く支えられて、やや性急に唇を重ねられる。
言葉もなく、溢れ出る感情のままに口づけを繰り返した。