廓の華
「二言はないな?」
呼吸の合間に低い声が耳をくすぐる。至近距離で視線が合う。
それは、どういう意味? 本当に願いを聞いてくれるの?
「そちらこそ、本気ですか? 断るなら、未練も残らないほど振ってください」
「本気だよ。はじめに言っただろう? 牡丹の全てを奪いに来たって」
これは現実? 愛する男性が気持ちを受け止めて、私をさらうと言ってくれる。
「久遠さまも、この町にいられなくなってしまいます」
「覚悟の上だよ。もう、捨てるものもない」
漆黒の瞳がこちらをとらえた。そこにはたしかな熱が宿っていて、全身に甘いしびれが走る。
「牡丹こそ、本当についてきていいのか? 俺は、一度君を手に入れたら逃がさない」
今ならまだ、なにもなかったことにできる。そう言いたいのね。ずるい人。私が貴方に溺れているとわかっているんでしょう?
長襦袢から見える首に抱きついた。はっと息遣いが聞こえる。
言葉が欲しいなら、いくらでも伝えてあげる。こんな愚かな私を、いつまでも愛して。
「後悔したっていい。今夜は離さないで」