廓の華


「く……おん、さま!」


 なぜ倒れているの? 私が来る前になにがあったの? 意識は? 怪我は?

 ぶわっと処理しきれない問いが頭に流れ込んだ。

 早く助けないと!

 しかし、駆け出そうとした瞬間。燃え盛る柱が目の前に倒れた。勢いよく熱風と火の粉が降り注ぎ、瞳に激痛が走る。

 経験したことのない痛みに声も出ない。ぼろぼろと涙が溢れてまぶたが開かなくなる。足の力が抜けて、その場に座り込んだ。


「う、ぅ……っ」


 目を擦るのは逆効果だった。痛くて痛くて、頭がどうにかなりそうだ。視界が真っ暗になり、最後に見た燃え盛る屋敷と倒れた彼の姿が頭から離れない。

 だめだ、空気が吸えない。意識が遠ざかって指一本動かせない。


 久遠さま。久遠さま。


 心の中で、彼の名前だけを呼んだ。こんな形で終わるの? 私の決死の足抜けは、命と共に未来を消す。うずくまり、ただ熱さと痛みに耐えるしかできない。

 あぁ、せめて最期は貴方の隣にいたかった。

 そんな願いも虚しく、希望も期待も黒煙に染まり、やがてコトンと意識を手放した。

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