廓の華
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『……さん……牡丹さん』


 遠くから聞こえるのは少し掠れた低くて甘い声だ。私のよく知る、大好きな声。

 だんだんと頭にかかったモヤが晴れていく。


「牡丹さん!」


 強い口調で名前を呼ばれた。背中にはたくましい腕が回されていて、ぎゅっと手を握ってくれている。


「久遠さま……?」


 そうつぶやくと、はっと小さな息遣いが聞こえた。繋がれた手の感触に安心感が広がる。


「久遠さま……久遠さま、よかった。無事だったんですね」


 支えてくれる体にすがりつく。ドクンドクンと鼓動が伝わってきた。

 生きている。彼は生きていたんだ。

 顔を見たくても、目が痛くて仕方がない。真っ暗な視界の中で彼の顔を思い浮かべた。


「ごめんなさい、私、火の粉をかぶって目が開かないんです。でも、見えなくたってわかる。貴方の声を聞き間違えるはずがないもの」


 歓喜に震える指で、大きな手のひらをなぞる。


「ほら、立派な竹刀ダコ。私に触れてくれた久遠さまの指です。それに……」


 感触をたどりながら首元に抱きつくと、首元から花のような匂いがわずかに香った。


「私の貸した香油の匂いがする。間違いない。久遠さま、よかった」


 
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