廓の華
『全身見たが、火傷は軽いのが幸いだ。処置が早かったから、おそらく痕は消えるだろう。だが、視力はこの先戻らない。俺の腕がうんぬんというより、今の医療技術では救えないな』
『そうですか……夜分に押しかけてすみません。頼れるところが他になくて』
『いいさ、お前の頼みなら。それにしても、足抜けを取り締まりに行ったはずのお前が自分でさらってくるなんてどういう了見だ? 花街に送り返すのか?』
『いや。目が見えないあの人は二度と客をとれないでしょう。それに、燃えたのは島根屋の大旦那があの人を身請けするために用意した屋敷だったと聞きました。……帰るところがないのなら、俺が連れて行きます』
誰だろう。久遠さまと、縹さん……? 町医者の元に連れてきてくれたんだ。
『連れて行くってお前、行くあてはあるのかよ? それに、牡丹のうわ言を聞いたか? ずっと同じ名前を呼んでいる。ふたりで生きるのは死ぬより苦しいぞ』
『あの人を幸せにできればそれでいいんです。俺が未来を奪ったも同然だから』
その後の記憶は曖昧になった。再び強い眠気に襲われて、夢の中へ落ちていく。
寝ても覚めても、真っ暗な闇の中へ堕ちていった。