廓の華
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「牡丹、足は疲れていないか?」

「えぇ、平気よ。久遠さまこそずっと手を引いて歩くの疲れてない?」

「なにも苦じゃないよ。もう少し歩いたら、どこかで休もうか」


 ひと月後、ふたりは地方に向かう道中にいた。島根屋に解雇された久遠さまも足抜けした私も町にはいられず、誰も自分たちを知らない地方へ行こうという話になったからだ。

 意識が戻った後、私は縹さんの診療所にいた。火傷が治るまで人目につかない離れで診てくれたこともあり、すっかり元の状態に戻れた。

 夢の中で聞いたようにやはり視力は戻らなかったが、久遠さまは生きてくれていればそれでいいと言った。移動の間はずっとこうして手を引いて歩いてくれる。

 歩幅を合わせて常に気遣いを忘れない、優しくて温かい彼に救われてきた。

 花街を出て変わった点といえば、私が久遠さまに敬語を使わなくなったことだ。座敷では客である彼にずっと敬語で話していたが、向こうから敬わなくていいと申し出られた。

 今ではすっかり対等に話す口調に馴染んでいる。以前よりもずっと距離が近づいたようで嬉しい。

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