廓の華

 その時、優しく手を引かれた。


「丘の上に茶屋があるみたいだ。あそこに寄ろう」

「わぁ、素敵ね。甘味はしばらく食べていなかったわ」


 導かれるままに足を進める。店先に長椅子が出ているようで、ゆっくりそこへ座らされた。久遠さまが女将に声をかけている。


「すみません、団子をふたつ」

「はいよー」


 明るい女性の返事が聞こえた。

 さわさわと穏やかな風に草がなびく音がする。冬を越えて春の気配が近づき、自然が芽吹き始めたのだろう。

 目が見えなくなってから、周囲の音に敏感になった。久遠さまが見ている景色を想像して脳裏に映す。


「はい、おまちどうさま。お茶もどうぞ」

「ありがとうございます。……はい、牡丹。団子だよ」


 骨張った長い指が櫛を持たせてくれた。目を閉じたままにこりと笑い返していると女将の声が届く。


「あら? 奥さんは目が不自由なの?」

「はい。火事に巻き込まれて。それから」

「それは可哀想に。それにしても、えらい美人だ。お似合いの若夫婦だね」


< 94 / 107 >

この作品をシェア

pagetop