廓の華
その時、優しく手を引かれた。
「丘の上に茶屋があるみたいだ。あそこに寄ろう」
「わぁ、素敵ね。甘味はしばらく食べていなかったわ」
導かれるままに足を進める。店先に長椅子が出ているようで、ゆっくりそこへ座らされた。久遠さまが女将に声をかけている。
「すみません、団子をふたつ」
「はいよー」
明るい女性の返事が聞こえた。
さわさわと穏やかな風に草がなびく音がする。冬を越えて春の気配が近づき、自然が芽吹き始めたのだろう。
目が見えなくなってから、周囲の音に敏感になった。久遠さまが見ている景色を想像して脳裏に映す。
「はい、おまちどうさま。お茶もどうぞ」
「ありがとうございます。……はい、牡丹。団子だよ」
骨張った長い指が櫛を持たせてくれた。目を閉じたままにこりと笑い返していると女将の声が届く。
「あら? 奥さんは目が不自由なの?」
「はい。火事に巻き込まれて。それから」
「それは可哀想に。それにしても、えらい美人だ。お似合いの若夫婦だね」