廓の華
夫婦という響きに胸が痛む。
第三者には夫婦に見えるんだ。
久遠さまは、自分を武家の三男だと言った。身分違いの婚姻は政府から認められていないため、籍を入れることができない。
彼は実家を捨ててまで私を連れ去ってくれたんだ。
たとえ夫婦になれなくても、共に寄り添う覚悟を決めて人生に責任を負ってくれた久遠さまの気持ちが嬉しかった。
私たちの関係は、なんと表せばいいのだろう。
「そういえば、ひと月前に江戸で大きな火事があったみたいだね」
ふと、女将がつぶやく。
「都から離れた所に建つ屋敷が全焼したんだってさ。周りを囲んでた竹藪まで燃えるほどの大火事だったそうだよ。火事と喧嘩は江戸の華とは言うけど、若い男が死んでいたらしいじゃない? 中には、放火だっていう噂もあってさ」
竹藪に囲まれた屋敷の大火事と聞いて、体が震えた。彼女の言っているのは私が巻き込まれた事故の話だろうか?
だが、久遠さまも縹さんも死人が出たなんて一言も口にしていない。私が治療を受けている間に、まったく違う火事が起きたのかな。